危険物の指定数量と倍数の計算|保管場所ごとに合計して在庫で管理する
危険物の指定数量とは、消防法が危険物ごとに決めている基準の量です。「ここから先は、許可を受けた施設でしか置けない」という線を表します。実際の判断には、置いている量を指定数量で割った「倍数」を使います。
倍数は、許可を取るときに一度計算して終わりになりがちです。けれども、在庫が増えたり、品目が入れ替わったりすることがあります。すると、いつの間にか許可や届出の倍数を超えていることがあります。
この記事では、まず倍数の計算のしかたを条文で確かめます。そのうえで、日々の在庫の数字で倍数を見張る方法を整理します。
- 1以上倍数の合計がこの値になったら、許可施設でしか置けない(消防法10条)
- 10日前品名・数量・倍数を変えるときの届出の期限(消防法11条の4)
この記事の内容(10項目)
危険物の指定数量とは
消防法9条の4は、「その危険性を勘案して政令で定める数量」を指定数量と呼んでいます。具体的な量は、危険物の規制に関する政令1条の11と別表第三で決まっています。類・品名・性質ごとに、量が分かれています。
指定数量は、危ないものほど小さく決められています。同じ第4類(引火性液体=火がつきやすい液体)でも、差があります。ガソリンが当たる第1石油類の非水溶性は200Lです。灯油・軽油が当たる第2石油類の非水溶性は1,000Lです。
第1類・第2類・第3類・第5類・第6類は、物の試験の結果で区分(第一種・第二種など)が決まります。区分によって、指定数量も変わります。自社の製品がどの区分かは、SDS(安全データシート)の「適用法令」の欄に書かれていることが多いです。まずそこを確かめます。
危険物の指定数量の倍数の計算方法
指定数量の倍数は、品名ごとに「置く量・扱う量 ÷ 指定数量」で出します。品名や指定数量の違う危険物を同じ場所に置くときは、それぞれの値を足します。消防法10条2項は、この合計が1以上なら、その場所は指定数量以上の危険物を置いているとみなすと定めています。
| 品名 | 保管数量 | 指定数量 | 倍数 |
|---|---|---|---|
| 第1石油類(非水溶性) | 120L | 200L | 0.6 |
| 第2石油類(非水溶性) | 500L | 1,000L | 0.5 |
| 第4石油類 | 600L | 6,000L | 0.1 |
| 合計 | 1.2 |
例のように、1つずつ見るとどれも指定数量に届いていなくても、合計で1を超えることがあります。倍数の計算で迷うのは、ほとんどがこの合計です。「どこまでを同じ場所として足すか」は、建物や区画の扱いで変わります。判断が分かれるときは、地元の消防本部に確かめてください。
検索の入力候補には「倍数計算 小数点」も出てきます。法令には、端数の丸め方が書かれていません。届出書や申請書にどう書くかは、消防本部の指示に合わせます。日々の管理では、丸めずに計算します。超えそうかどうかを早めに見るほうが安全です。
倍数で決まる許可と届出の線
倍数の合計で、その場所に何が必要かが決まります。
- 同じ場所の倍数の合計が1以上かはい許可を受けた製造所・貯蔵所・取扱所が必要(10条1項)いいえ次へ
- 火災予防条例が定める量(多くは5分の1)以上かはい少量危険物として消防署へ届出いいえ条例の基準に従って置く
仮に置くだけでも、指定数量以上なら消防署長等の承認(10日以内)が要る。
指定数量以上の危険物を、許可を受けた施設の外で置いたり扱ったりすると、罰則の対象です。1年以下の拘禁刑か、100万円以下の罰金です(消防法41条1項3号)。法人には、3,000万円以下の罰金が科されることがあります(45条2号)。
指定数量に満たない危険物は、置き方・扱い方の基準を市町村の条例で決めます(消防法9条の4)。多くの市町村の火災予防条例は、指定数量の5分の1以上を「少量危険物」として、届出の対象にしています。ただし、線の引き方や届出の様式は、自治体ごとに違います。所在地の条例を一度読んでおきます。
倍数を変えるときは10日前に届け出る
許可を受けた施設で、置く危険物の品名・数量・指定数量の倍数だけを変えることがあります。施設の位置・構造・設備は変えない場合です。このときは、変える日の10日前までに市町村長等へ届け出ます(消防法11条の4第1項)。届け出なかったときは、30万円以下の罰金か拘留の対象です(44条8号)。
届出で済む変更
- 置く品名を変える
- 数量を変える
- 倍数を変える(施設はそのまま)
変更の許可が要る変更
- 施設の位置を変える
- 構造や設備を変える
- 許可の範囲を施設ごと広げる
ここで在庫の管理が効いてきます。届出は「変えようとする日」の前に出すものです。超えてから出すものではありません。忙しい時期の前にまとめて仕入れる、新しい溶剤に切り替える。こうした予定が立ったら、倍数を計算し直します。そして、届出が要るかを判断します。
許可書や届出書に書いた倍数は、在庫を管理する人の手元に無いことが多い数字です。管理表の「許可・届出の倍数」の欄に写しておきます。そうすると、日々の数字と上限を同じ行で比べられます。
一時的に危険物が増えるときの仮貯蔵
工事や設備の入れ替え、季節の需要などで、一時的に危険物が増えることがあります。ふだんは指定数量未満の場所に、短い間だけ指定数量以上を置く場合です。
消防法10条1項ただし書は、この場合の例外を決めています。地元の消防長か消防署長の承認を受ければ、10日以内なら、指定数量以上の危険物を仮に置いたり扱ったりできます。一般に「仮貯蔵・仮取扱い」と呼ばれる手続きです。
仮貯蔵で対応できる
- 期間が10日以内で終わる
- 事前に消防署長等の承認を受けている
- 承認の条件どおりの場所・方法で置く
仮貯蔵では対応できない
- 10日を超えて置き続ける
- 承認を受けずに先に搬入した
- 同じ形で何度もくり返している
仮貯蔵は、あくまで一時的な例外です。申請のしかたや要る書類、承認までの日数は、消防本部ごとに違います。予定が決まったら、早めに相談します。在庫の数字で「この週だけ倍数が1を超える」と前もって分かれば、申請の準備が間に合います。超えることが分かるのは、日々の倍数を出しているときだけです。
危険物の在庫管理に法令上の義務はあるか
検索の入力候補には「危険物 在庫管理 義務」「危険物 在庫管理 法令」も出てきます。消防法には、在庫表を付けよという条文はありません。義務になっているのは、次の2つです。指定数量以上を、許可施設の外に置かないこと(10条1項)。許可施設では、許可・届出の範囲で置くこと。
ところが、この2つを守っているかは、在庫の数字でしか確かめられません。倉庫の担当者は「だいたいこのくらい」と思っています。その量と実際の量がずれていれば、知らないうちに上限を超えます。
- 入荷が重なった週だけ、危険物庫が上限を超える
- 新しい製品が増え、別の品名の分が合計に入っていなかった
- 空き缶だと思っていた容器に中身が残っていた
どれも、日々の保管量を品名ごとに書き、倍数を合計していれば気づけることです。在庫管理表は、法令の様式ではありません。でも、法令を守っていることを自分で確かめる道具になります。数を合わせる考え方は棚卸差異を減らす方法とも共通です。
保管場所ごとに倍数を合計する管理表の作り方
在庫板の「危険物 保管量・指定数量の倍数 管理表」は、1行に1品名を書く形です。同じ保管場所・同じ確認日の倍数を、自動で合計します。
判定の欄には、上限を書いた行なら「範囲内」か「超過」が出ます。上限が空欄の行なら「指定数量以上」か「指定数量未満」です。超過と指定数量以上は、赤で色が付きます。
気をつけたいのは、保管場所の書き方がばらばらだと、別の場所として計算されることです。「第2倉庫」と「第二倉庫」は別物になります。場所の名前は、棚番の一覧と同じものを使ってください。棚番の付け方は棚移動記録の付け方でも扱っています。
確認の頻度と、棚卸との組み合わせ
倍数の確認は、毎日でなくてもかまいません。次の3つの時点では必ず確かめる、と決めておきます。それで超過を防げます。
- まとまった入荷の前:入れたあとの倍数を先に計算する
- 品目を新しく採用するとき:品名区分と指定数量を確かめる
- 月末の棚卸のとき:数えた数量で倍数を出し直す
月末の棚卸と同じ日にすれば、数える手間は1回で済みます。棚卸表で数えた量のうち、危険物の行だけをこの表に写します。そうすれば、在庫の数字が二重になりません。
製造所や一般取扱所では、置いている量ではなく、1日に扱う量で倍数を数えるのが原則とされています。工程で使う量を管理したいときは、保管数量の列の名前を「1日の取扱量」に変えて使ってください。
棚卸の進め方は棚卸当日の進め方にまとめています。
危険物の品名区分はSDSで確かめる
倍数の計算でいちばん間違えやすいのは、計算そのものではありません。どの品名に当たるかの当てはめです。同じ「シンナー」でも、成分によって第1石油類にも第2石油類にもなります。水に溶けるかどうかでも、指定数量が2倍違います。
品名の区分は、製品のSDSの「適用法令」の欄に書かれていることが多いです。消防法の類と品名、性質が載っています。書かれていない、またはあいまいなときは、メーカーに問い合わせます。推測で区分を決めると、倍数が半分や倍にずれます。
SDSを製品ごとに一覧にしておくと、新しい製品を使い始めるときの確認が早くなります。在庫板の「SDS管理台帳」と管理番号をそろえておきます。そうすれば、危険物の管理表の品名の区分は、台帳から写すだけで済みます。SDSの台帳の作り方はSDS管理台帳の作り方で説明しています。
よくある質問
- Q. 指定数量の倍数に上限はありますか?
- 倍数そのものに上限はありません。上限になるのは、その施設が許可や届出で認められている倍数です。施設を変えずに倍数を増やすときは、10日前までの届出が必要です(消防法11条の4)。
- Q. ガソリンの携行缶を倉庫に置くときも計算しますか?
- 計算します。ガソリンは第4類第1石油類(非水溶性)で、指定数量は200Lです。同じ場所に灯油や塗料などがあれば、その倍数も合計します。
- Q. 倍数の計算はエクセルでしてもよいですか?
- 日々の管理はExcelで問題ありません。ただし許可申請や変更届出では、消防本部が示す倍数計算書の様式に合わせて提出してください。
- Q. 灯油と軽油は同じ指定数量ですか?
- どちらも第4類の第2石油類(非水溶性)に当たり、指定数量は1,000Lです(政令別表第三)。同じ品名区分なので、灯油400Lと軽油300Lを同じ場所に置くと、700L ÷ 1,000L で倍数は0.7になります。
- Q. 空になった缶も数量に入れますか?
- 中身が残っている容器は、残っている量を数量に入れます。空だと思っていた缶に中身が残っていて、合計が上限を超えていたという例は珍しくありません。空缶は置き場を分け、中身が無いことを確かめてから外します。
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