在庫異常の報告のしかた - 水濡れ・破損・盗難の疑いを書く7項目と報告後の処理
倉庫の雨漏りで箱が濡れていた。フォークで棚をぶつけて中身が変形した。数えたら、明らかに減っている。在庫の異常には、数が合わないこと以外にもいろいろあります。ただ、書く場所が決まっていないと、どれも口頭で終わります。
口頭で終わった異常は、帳簿には正常な在庫として残ります。そして翌月の棚卸で差異になり、原因は分からないまま調整で処理されます。この記事では、数以外の在庫異常の報告を、書く場所と書き方の面から整理します。棚卸で出た差の追い方は棚卸差異の原因にまとめました。
この記事の内容(13項目)
- 数以外の在庫異常には何があるか
- 共通しているのは「数は合っている」こと
- 気づく人は決まっていない
- ラベルの消失も異常として扱う
- 在庫異常の報告に書く項目
- 原因の欄は任意にする
- 数量が分からなくても受け付ける
- 写真は任意でよい
- 報告しやすい形にする
- 用紙を倉庫に置く
- 受け取る人を決める
- 結果を返す
- 責める運用にしない
- 報告を受けたあとの処理
- まず良品と分ける
- 使えるなら戻してよい
- 在庫から落とすところまでやる
- 棚卸差異とのつながり
- 差異の型のうち2つは異常報告で消える
- 差異調査のときに異常報告を見る
- 異常報告の件数が増えるのは悪いことではない
- 盗難や紛失の疑いをどう書くか
- 事実だけを書く
- 個人を名指ししない
- 件数と場所の傾向を見る
- 対応は社内の規程に従う
- 異常の件数を減らす手当て
- いちばん多い種類から1つだけ手を打つ
- 雨漏りと積み上げは効果が大きい
- 件数を月に1回だけ見る
- 報告を続けるための工夫
- 迷ったら書く、で通す
- 3か月続いたかを見る
- 在庫異常の報告でつまずきやすい3つ
- その1:詳しい報告を求める
- その2:報告しても何も返ってこない
- その3:在庫の記録を更新していない
- 在庫異常の報告にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 在庫異常の報告に出てくる用語
- 在庫異常の報告と一緒に押さえておきたいこと
- 壊した人の給料から、弁償を天引きしない
- 盗難の疑いが強いときは、警察への相談と記録を分ける
- 使えなくなった在庫は、税務の扱いも確かめる
- よくある質問
数以外の在庫異常には何があるか
在庫の異常報告の対象は、数が合わないこと以外の変化です。次のようなものが該当します。
| 異常の種類 | 起きる場面 | 放置すると |
|---|---|---|
| 水濡れ・湿気 | 雨漏り、結露、屋外保管 | 使えない在庫が帳簿に残る |
| 汚損・変色 | 直射日光、粉じん、油 | 出荷してから返品になる |
| 破損・変形 | フォークの接触、積み上げすぎ | 不良として気づかれずに出る |
| 紛失・盗難の疑い | 施錠されていない、外部の出入り | 原因不明の差異が続く |
| 虫害・獣害 | 倉庫の隙間、食品や紙製品 | 周囲の在庫まで広がる |
| 表示の消失 | ラベルの剥がれ、印字の退色 | 品目が特定できなくなる |
共通しているのは「数は合っている」こと
これらの異常は、数を数えれば帳簿と合います。合っているのに使えないという状態なので、数量の管理だけでは見つかりません。
気づく人は決まっていない
異常に気づくのは、たまたまその棚に行った人です。誰でも書ける形にしておかないと、報告そのものが上がりません。
ラベルの消失も異常として扱う
表示が読めなくなった在庫は、そのうち「正体不明の在庫」になります。気づいた時点で報告してもらえば、まだ特定できます。
在庫異常の報告に書く項目
在庫の異常報告は、書く量を最小限にします。詳しい報告を求めると、上がってこなくなります。
| 項目 | 書き方 | 必須か |
|---|---|---|
| 発見日・発見者 | 日付と名前 | 必須 |
| 場所(棚番) | どこで見つけたか | 必須 |
| 品目・数量 | 分かる範囲で。不明なら不明と書く | 必須 |
| 異常の内容 | 見たままを書く。「箱の底が濡れている」 | 必須 |
| その場でやったこと | 移した、覆いをかけた、など | 必須 |
| 写真 | あれば添える | 任意 |
| 推定される原因 | 分かる場合のみ | 任意 |
原因の欄は任意にする
原因を書かないと報告できない形にすると、報告が止まります。見たままの事実だけで受け付けるのが基本です。原因の調査は後の段階です。
数量が分からなくても受け付ける
「この棚のこのあたりが濡れている」でも、報告としては十分です。正確な数を数えてから報告する形にすると、そこで止まります。
写真は任意でよい
あれば助かりますが、必須にすると手間になります。撮れる人が撮るくらいの運用にしておきます。
報告しやすい形にする
在庫の異常報告が上がらない理由は、書きにくいか、書いても何も起きないかのどちらかです。
用紙を倉庫に置く
事務所に取りに行く形だと、書かれません。倉庫の入口に用紙とペンを置くだけで、報告の数が変わります。
受け取る人を決める
書いた紙をどこに出せばよいかが決まっていないと、机の上に置かれて終わります。回収する箱を作るか、担当を決めます。
結果を返す
報告した人に、その後どうなったかを一言伝えます。「あれ、廃棄にしました」と伝えるだけで、次から報告が上がるようになります。
責める運用にしない
フォークでぶつけた、というような報告に対して原因を追及すると、次から報告されません。報告は正しい行動として扱うと決めておきます。
報告を受けたあとの処理
在庫の異常報告は、受け取ったあとの処理まで決めておきます。ここが無いと、紙が溜まるだけになります。
| 順 | やること | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 現物を見て、良品と分けるか判断する | 当日 |
| 2 | 使えるかどうかを判定する | 3営業日 |
| 3 | 処置を決める(使用可・手直し・廃棄) | 3営業日 |
| 4 | 在庫の記録を更新する | 処置の実施時 |
| 5 | 同じことが起きない手当てを1つ決める | 翌月まで |
まず良品と分ける
判定を待つ前に、良品と混ざらない場所へ移します。判断は後でよいので、隔離は当日にやるのが基本です。隔離の場所の作り方は不良品を見つけたときの流れで扱っています。
使えるなら戻してよい
外箱が濡れただけで中身は無事、ということもあります。使えると判定したら、記録を残して棚に戻します。戻したという記録が無いと、あとで数が合いません。
在庫から落とすところまでやる
廃棄と決めた分を在庫から落とさないと、翌月の棚卸で差異になります。入出庫の記録に区分を作って、出庫として1行通します。
棚卸差異とのつながり
在庫の異常報告が無いと、その分は棚卸で差異として現れます。ただし、そのときには原因が分かりません。
異常を報告しない
その場の手間はゼロ。帳簿には正常な在庫として残る。
翌月の棚卸で原因不明の差異になる。
気づいたときに1行書く
2分の手間がある。その時点で在庫から落とせる。
棚卸の差異がその分だけ減る。
差異の型のうち2つは異常報告で消える
棚卸差異の原因のうち、現物の劣化・破損と、持ち出し・紛失の2つは、異常報告があれば差異になりません。報告の時点で処理されるからです。
差異調査のときに異常報告を見る
棚卸で差が出た品目について、その期間の異常報告を見ると、原因が見つかることがあります。2つの記録を突き合わせるだけで、調査が早く終わります。
異常報告の件数が増えるのは悪いことではない
報告が増えると問題が増えたように見えますが、多くの場合はこれまで見えていなかったものが見えるようになっただけです。棚卸の差異が同時に減っていれば、うまくいっています。
盗難や紛失の疑いをどう書くか
在庫の異常報告のなかで、扱いが難しいのが盗難の疑いです。書き方を決めておかないと、報告されません。
事実だけを書く
「盗まれた」ではなく「棚にあるはずの5個が見当たらない。前回確認は8月20日」と書きます。断定を避けて、確認した事実だけを残すのが原則です。
個人を名指ししない
疑いを記録に書くと、それ自体が問題になります。誰がという情報は書かず、いつ・どこで・何が という事実に絞ります。
件数と場所の傾向を見る
紛失の報告が特定の場所や時間帯に集中しているなら、そこに手を打ちます。施錠、動線、表示。人ではなく仕組みで対応できることが多くあります。
対応は社内の規程に従う
盗難が疑われる事案の扱いは、自社の規程や就業規則に定めがあることがあります。在庫管理の記録としては事実を残し、その後の対応は規程に従ってください。
毒物・劇物は、盗難や紛失に気づいたら直ちに警察署へ届け出ることが法律で決まっています(毒物及び劇物取締法17条2項)。受払の付け方と在庫の点検は毒劇物の管理簿にまとめました。
異常の件数を減らす手当て
在庫の異常報告がたまってきたら、種類ごとに手を打ちます。多くは保管のしかたで減らせます。
| 多い異常 | 手を入れる場所 |
|---|---|
| 水濡れ | 雨漏りの補修。屋外保管をやめる。パレットで底上げする |
| 破損・変形 | 積み上げの段数を決める。通路幅を確保する |
| 汚損・変色 | 直射日光を避ける。カバーをかける |
| 紛失 | 施錠する。持ち出しの動線を1本にする |
| ラベルの消失 | ラベルの材質を変える。棚側にも表示する |
いちばん多い種類から1つだけ手を打つ
全部に対応しようとすると進みません。件数のいちばん多い種類に対して、1つだけ手を打つと決めて、翌月の件数を見ます。
雨漏りと積み上げは効果が大きい
水濡れと破損は、原因がはっきりしていて対策も具体的です。屋根の補修や積み上げ段数の見直しは、1回やれば長く効きます。
件数を月に1回だけ見る
細かい分析は要りません。種類ごとの件数を月に1回並べるだけで、傾向は見えます。
報告を続けるための工夫
在庫の異常報告は、始めるのは簡単ですが、数か月で止まりがちです。続ける工夫を先に入れておきます。
| 止まる理由 | 続く形 |
|---|---|
| 書く場所が遠い | 倉庫の入口に用紙とペンを置く |
| 書いても何も起きない | 処置の結果を報告者に一言返す |
| 書くと責められる | 事実だけを書く形にして、原因は任意にする |
| 誰が見るか分からない | 回収する箱と担当を決める |
| 異常かどうか判断に迷う | 迷ったら書く、で通す |
迷ったら書く、で通す
報告するほどではないかもしれない、と迷った時点で書いてもらいます。受け取る側で判断すればよいので、現場に線引きをさせません。
3か月続いたかを見る
報告の件数が3か月目に落ちていたら、書きにくい形になっています。用紙の場所か、結果を返しているかを見直します。件数そのものより、続いているかを見ます。
在庫異常の報告でつまずきやすい3つ
その1:詳しい報告を求める
原因や数量を正確に書かないと受け付けない形にすると、報告が上がりません。見たままの事実だけで受け付けるようにして、調査は後の段階に分けます。
その2:報告しても何も返ってこない
書いたのに何も起きないと、次から書かれません。「あれ、廃棄にしました」と一言返すだけで、報告が続きます。
その3:在庫の記録を更新していない
異常を報告して現物を処分しても、帳簿から落とさなければ棚卸で差異になります。入出庫の記録に1行通すところまでを、処理に含めます。
数以外の在庫異常の報告は、倉庫に用紙を1枚置くところから始まります。書く量を減らし、結果を返す。この2つがあれば、これまで見えていなかった在庫の状態が見えるようになります。
在庫異常の報告にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
在庫異常の報告そのものを定めた法令はありません。ただ、破損の原因になりやすいフォークリフトの点検と、倉庫での労働災害のまわりには動きがあります。日付順に並べます。
| 時期 | 出来事 | 在庫異常の報告への影響 |
|---|---|---|
| 2025年1月1日 | 労働者死傷病報告が原則として電子申請になり、報告事項に発生状況と原因が入った(労働安全衛生規則第97条) | 荷崩れやフォークの接触でけが人が出たとき、在庫の異常報告に書いた事実がそのまま材料になる |
| 2026年1月1日 | 特定自主検査を、厚生労働大臣が定める基準に従って行う義務が施行された(労働安全衛生法第45条第3項) | フォークリフトは年1回の特定自主検査の対象(同規則第151条の21)。破損の報告が同じ車に集まるなら、点検の記録と突き合わせる |
| 2026年5月27日 | 令和7年の労働災害の確定値が公表された。休業4日以上の死傷者は135,333人、はさまれ・巻き込まれによる死亡は117人 | 棚や荷の破損の報告は、けがの手前の出来事として扱う価値がある |
在庫異常の報告で、ポイントは「物が壊れた」報告を、安全の担当にも1行回すことです。棚にぶつかった、荷が崩れた、という報告は、次のけがの手前で上がってくる情報です。
出典:労働安全衛生法(e-Gov法令検索)、労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)、労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の概要(厚生労働省)、令和7年の労働災害発生状況(厚生労働省)
確認日は2026年10月3日です。フォークリフトの点検や労働災害の報告の扱いは、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
在庫異常の報告に出てくる用語
在庫異常の報告では、似た言葉が別の意味で使われます。とくに「異常在庫」は、この記事の「在庫の異常」とは別のものを指すことが多い言葉です。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 在庫の異常 | 水濡れ・汚損・破損・紛失の疑いなど、在庫の状態に起きた変化。この記事で扱う範囲 | 法令上の定義はない |
| 異常在庫 | 持ちすぎ、動いていない、売れない在庫など、量や回転がおかしい在庫を指す呼び方 | 法令上の定義はない |
| 棚卸差異 | 帳簿の数と、数えた現物の数の差 | 法令上の定義はない(会計では棚卸減耗として扱う) |
| 隔離 | 使えるか分からない物を、良品と混ざらない場所へ移しておくこと | 法令上の定義はない |
| 準ずる特別の事実 | 破損、型崩れ、たなざらし、品質変化などで通常の方法では売れなくなったこと。税務で在庫の評価を下げられる場合の例 | 法人税基本通達9-1-5 |
| 窃盗 | 他人の物を盗むこと。社内の記録で使うと断定になるので、報告では「見当たらない」と書く | 刑法第235条 |
| 特定自主検査 | フォークリフトなどについて、資格を持つ者や登録した検査業者が年1回行う検査 | 労働安全衛生法第45条第2項、労働安全衛生規則第151条の21・第151条の24 |
在庫異常の報告で混ざりやすいのは、「在庫の異常」と「異常在庫」です。持ちすぎや滞留を減らしたいときは、不動在庫を減らす方法のほうが近い内容です。
在庫異常の報告と一緒に押さえておきたいこと
在庫異常の報告の解説は、報告書の項目で終わることが多くあります。報告を受けたあとで、法令や税務にかかわって抜けやすいことを3つ挙げます。
壊した人の給料から、弁償を天引きしない
フォークで棚をぶつけた、という報告に対して弁償を求めたくなる場面があります。ただ、賃金はその全額を払うと定められていて(労働基準法第24条第1項)、損害賠償の額をあらかじめ決めておく契約も禁じられています(同法第16条)。報告書に「弁償」の欄を作らないことが、報告を止めないためにも、法令の上でも安全です。損害の扱いを決めるのは、報告とは別の場にします。
盗難の疑いが強いときは、警察への相談と記録を分ける
社内の記録には「見当たらない」と事実だけを書き、盗まれたと判断したら、警察に被害を届け出るかを会社として決めます。急ぎでないときは、警察相談専用電話「#9110」で相談できます。届け出たら、受理した警察署と日付を報告書の処置の欄に書き足しておくと、保険の請求や棚卸の調整の説明に使えます。
使えなくなった在庫は、税務の扱いも確かめる
破損・型崩れ・品質変化で通常の方法では売れなくなった在庫は、捨てる前でも税務で評価を下げられる場合の例に挙げられています(法人税基本通達9-1-5)。そのためには、いつ・何が・どういう状態になったかの記録が要ります。在庫異常の報告書は、その記録の元になります。写真と処置の結果まで残しておき、廃棄に進むなら在庫を廃棄するまでの手続きへつなげます。
出典:労働基準法(e-Gov法令検索)、刑法(e-Gov法令検索)、法人税基本通達 第9章第1節第2款 棚卸資産の評価損(国税庁)、警察相談専用電話「#9110」(政府広報オンライン)
よくある質問
- Q. 在庫の異常報告は、どこまで詳しく書いてもらうべきですか?
- 発見日、発見者、場所、品目と数量、異常の内容、その場でやったことの6つで足ります。原因や写真は任意にしてください。詳しい報告を求めると、書くのが面倒で報告そのものが上がらなくなります。
- Q. 数量が正確に分からない場合も報告してよいですか?
- 構いません。「この棚のこのあたりが濡れている」でも報告としては十分です。正確な数を数えてから報告する形にすると、そこで止まります。数量は受け取った側で確認すれば足ります。
- Q. 盗難が疑われる場合、記録にどう書けばいいですか?
- 断定を避けて、確認した事実だけを書いてください。「棚にあるはずの5個が見当たらない。前回確認は8月20日」という形です。個人を名指ししないことも大切です。その後の対応は自社の規程に従ってください。
- Q. フォークで棚を壊した従業員に、弁償させてよいですか?
- 給料から天引きする形はとらないでください。賃金は全額を払うと定められており(労働基準法第24条第1項)、損害賠償の額をあらかじめ決めておく契約も禁じられています(同法第16条)。報告書には事実と処置だけを書き、損害の扱いは報告とは別の場で決めます。弁償を求める運用にすると、次から報告が上がらなくなります。
- Q. 異常報告の件数が増えてしまいました。悪化しているのでしょうか?
- 多くの場合、これまで口頭で終わっていたものが見えるようになっただけです。同じ時期に棚卸の差異が減っていれば、うまくいっている証拠です。件数の多い種類から1つずつ手を打っていけば、そのあと減っていきます。
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